シンポジウム・レポート

2011年5月24日(火)慶應義塾大学三田キャンパス東館6Fにおいて「共通番号制度・国民ID制度を考える」のシンポジウムが開かれた。共通番号制度・国民ID制度は、税と社会保障の一体改革の観点からだけではなく、先の東日本大震災の問題で浮き彫りになった医療におけるデータ連携という問題の観点からも関心が集まっている。4月28日に社会保障・税番号要綱が発表されたことを踏まえて、当該要綱をもとに共通番号・国民IDが制度化されることによって、国民にとってどのようなメリットが生まれ、またどのような問題が生じるのかについて様々な観点から議論がなされた。

パネリスト

大山 永昭 氏  東京工業大学 教授
神成 淳司 氏  慶應義塾大学環境情報学部 准教授
鈴木 正朝 氏  新潟大学法科大学院 教授
高木 浩光 氏  産業技術総合研究所 主任研究員
向井 治紀 氏  内閣審議官
村上 輝康 氏  株式会社野村総合研究所 シニアフェロー  
                                        <五十音順>

モデレータ

國領 二郎     慶應義塾大学総合政策学部長

シンポジウムの前半は、各パネリストにそれぞれの立場から共通番号制度・国民ID制度についての論点をご発言いただいた。

まず、内閣審議官の向井治紀氏が、4月28日に発表された社会保障・税番号要綱について作成の経緯や今後の法案の過程といった概要を説明した。基本的には社会保障・税の分野において国民目線、公平公正さを実感するように作られているが、今回の地震によって、社会保障・税だけでなく防災・福祉の観点からも番号制度を検討する必要がある。また、社会保障・税は国民の権利義務に関わるものであり、法制度を必要とするため番号法が必要であると述べた。また、技術面、ユースケースで詰められていない部分もあるため、今後詰めていくとともに、時間を区切るのではなく、よりよいものを作っていきたい旨、そのためにも現在の政府案にこだわらず、有識者の方々から意見を頂きたい旨を述べた。

次に、東京工業大学の大山永昭氏は、番号制度に必要な3つの仕組みとして、1)付番(新たに国民一人一人に唯一無二の民―民―官で使える見える番号のことをさす。)2)情報連携 3)本人確認(番号の紐付け)が欠かせないこと、中でも番号の紐付けについては年金の例を挙げ、大変な労力がかかると述べた。

また、情報連携基盤の基本機能として、1)異なる利用番号間の変換を行う番号連携機能 2)個人の属性情報の連携に関するログの記録管理とアクセスコントロールについて検討していくことが肝要とし、今後の課題として番号導入の自己目的化の回避が必要であり、訴求力のある導入効果実現とセットで推進すべきであると発言した。
マイポータルについては、ログのコーディング機能、ログを利用者に分かる言葉に翻訳する機能や、厳密なログイン確認のためのJPKI認証機能を想定しているが、将来的には利用者のより簡単な利用のため、ID、パスワード認証機能や、さらにはOpenID認証なども必要になると述べた。
ICカードに付いては、番号が記載されたカードで何が出来るのか、どこで使えるのか、利用シーンごとの直接的、間接的なメリットの明確化が必要であると述べた。

慶應義塾大学の神成淳司氏は、東日本大震災におけるID不在の問題点について述べた。医療に関しては、身元を確認するものがないこと、また過去の医療情報が失われるなどして参照できず、継続的なケアが受けられなくなっているという問題や、そもそも身元確認とそれを共有するIDがないために、個人単位ではなく避難所単位で被災者を管理しているが、たとえばセクハラの被害に遭ったとしても、避難所移動が困難であるといった問題を指摘し、こうした問題に対応するための基盤を早期に実現する必要があると述べた。

産業技術総合研究所の高木浩光氏は、情報連携基盤のリンクコード変換は無用だという批判の声があるが、リンクコード変換は、情報保有機関同士が結託してもIDを用いたマッチングによる名寄せができないようにするための仕組みであると発言した。その上で、現行の案では、たとえリンクコード変換を用いたとしても、異なる分野の情報保有機関が「番号」を持つことになっているので、それが共通のIDとなって、名寄せの懸念が残るため、各分野毎に「番号」を分けるべきであり、歳入庁構想のためだとしても税と年金のみ同一の番号として、他の分野は別の番号にするべきではないか、そうでないと、リンクコード変換は無用だという批判に反論できなくなり、批判に屈してリンクコード変換を廃止することになれば、今度は、すべての情報がひもづけられてしまうという論拠で、制度そのものへの反対の声が台頭してくるのではないかと述べた。

新潟大学法科大学院の鈴木正朝氏は、連続的一体的立法政策の必要性を説いた。個人情報保護法の時には3年後の見直しが全くなされなかったことが問題だとし、個人情報保護法制から情報プライバシー保護法への改正への転換が必要だと発言した。
また、妥協のない制度設計、アクセルとブレーキの使い分けの必要性について述べ、第三者機関や情報連携基盤の運営組織は、ブレーキの役割を果たせる機関としないと、原発の二の舞になるため、権限の分割を含めたガバナンスの仕組みが求められると述べた。

株式会社野村総合研究所シニアフェローの村上輝康氏は、電子政府実現のためには、「国民ID制度」と「社会保障・税の共通番号」は車の両輪として必要であるが、行政機関間を情報連携するための共通番号は議論されている一方で、行政機関と国民を結ぶ国民IDの方は議論が進んでいないと発言した。また、現在の要綱では産・民のメリットが見えず、直罰のみ規定されているように見えるため、将来的に産・民へのメリットを実現するためにも、米国NSTICのような、トラストフレームワークによる情報流通の仕組みが必要であると述べた。

シンポジウムの後半では、モデレータから各パネリストへ質問や、シンポジウム参加者からのパネリストへの質疑応答がなされた。
  まず、モデレータの國領二郎氏から向井氏に対して、今回の要綱ついて医療の分野も関わってくのかと質問した。向井氏は、情報連携は将来、幅広く行うことを前提としており、医療は社会保障の分野に含まれ、また医療は診療の分野も関わってくることになる、と回答した。

続けて國領氏は、情報連携基盤の法律である番号法について、技術が進化することが想定されている中で、法律で決めることが技術の進化をしばることもあり得るとして、番号法の中で何を決めるべき、あるいは何を決めないでおくべきかと、向井氏に投げかけた。向井氏は、大綱の場面、予算要求の場面、法案の場面、の3つの場面を挙げ、大綱の場面では、法律事項の最低限のことは決めなくてはならない、必ずしも細かく決める必要はないと発言した。また、ICカードといった特定のデバイスを想定することに関しては、大山氏がオンライン認証用途については、レベルに応じた認証手段を用いるべきで、ICカードだけにこだわる必要はないのではないか、と発言した。

次に國領氏が鈴木氏に、今回の要綱の中で、ここはあぶないと思う箇所はどこか?と質問した。鈴木氏は、2年前の段階であれば行政をチェックするのは国会であり、両院の委員会のもとに置いた機構が必要ではないかと、欧米と比較して議論すべきだった。根拠法も重要だが、三条委員会の中で、どう権限をマッピングするか重要だと前置きした。個人情報は、特定個人を識別することしぼられており、行法では番号を保護対象にしてない、番号に係る個人情報に限定されているが、番号にかからない情報とはなにか。番号と切り離した個人情報の問題に関して第三者機関は権限を行使できないのかと述べた。また、番号はそれ自体で悪なわけではなく、ある状況のもとで悪になりうるものであることから、直接罰ではなく間接罰とすべきと述べた。また当議論においては高木氏からも、様々なデータの連結が問題なのであり、番号の告知を一回求めたらすぐに危険が生ずるわけではなく、同じことがあちこちで継続に行われることで危険が顕在化するものであることから、間接罰とすべきだろうと述べた。また大山氏は、技術的観点からは番号を同一にする必要がないのは当然であり、共通にするほうが面倒であろうと述べた。向井氏はこれに対し、番号はもともと年金の話から出てきており、不都合であるなら当然分野ごとに別番号とすることもありうる、と述べた。

また村上氏と高木氏の議論の中、なぜ番号が必要なのかという点について、高木氏は、番号の意義は、個人を確実に識別し、一人が同分野で二つの番号を持つことがない、唯一無二性を保障することにあり、もしこれを分野ごとに個別に実現していたら相当のコストが必要になってしまうところ、リンクコード変換を用いることで、住民票コードを基に合理的に実現できるところにあるもので、番号が共通である必要性はないと発言した。

最後に、シンポジウム参加者から地域の自治体はこの問題にどう対応すればいいか?という質問があがった。向井氏は地方との連携は極めて重要と考え、地方から具体的なユースケースを大量に集めて、現在検討している、あらゆる段階でぬかりのないようにしていきたいと発言した。

 

(文・吉野佐登史)
開催:2011年5月24日 18:00-20:30
於 慶應義塾大学三田キャンパス 東館 G-sec lab