シンポジウム・レポート

2011年2月1日、慶應義塾大学三田キャンパス北館ホールにおいて、「ウィキリークスが意味するもの―外交、ジャーナリズム、ビジネスへの影響―」と題したシンポジウムを開催しました。本シンポジウムでは、完全透明化社会を目指すウィキリークス、国家機密を守ろうとする国民国家、その間で存在意義を示そうとする既存のマスメディア、ネット企業によるウィキリークスへのサービス提供停止、DDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)を手段としたサイバー全面戦争の動き、ウィキリークス時代の企業や政府の情報管理体制、など様々な観点からウィキリークスが意味するものについて議論しました。

パネリスト

柿沢 未途 氏 衆議院議員<みんなの党>
関口 和一 氏 日経論説委員
世耕 弘成 氏 参議院議員<自民党>
夏野 剛   氏 慶應義塾大学特別招聘教授
町田 徹   氏 ジャーナリスト              〈五十音順〉

モデレータ

金  正勲     慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 准教授

シンポジウムの前半では、各パネリストから国家の情報管理体制やメディアに対する考えを、それぞれの立場からプレゼンテーションして頂いた。

最初に、ジャーナリストの町田徹氏が、既存のメディアには、国家の情報管理体制とネットメディアによる情報発信の関係性や、権力者による言論規制のリスク等についてきちんと説明する責任があると発言した。

 

次に、慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は、個人が情報を公開する時代においては、全ての情報が公開される可能性があることを前提とした社会制度を設計することについて議論する必要があると発言した。

 

自民党参議院議員の世耕弘成氏は、情報を持つ組織は情報管理を徹底する責任があるとした上で、国としては情報が不正に持ち出されることを抑止する法律を整備することについてきちんと考える必要があると発言した。

 

みんなの党衆議院議員の柿沢未途氏は、行政の持つ情報は全て公開することが原則であり、行政による情報の秘匿は例外的に認められるにすぎないとした上で、行政が情報を秘匿する場合には、その情報を秘匿する理由と期間を明示する必要があると発言した。

 

日経論説委員の関口和一氏は、国家の機密情報を暴露するウィキリークスの問題においては、機密情報を持ち出す個人にも問題はあるが、機密情報が簡単に持ち出されてしまう国家の情報管理の体制に大きな問題があると発言した。

 

シンポジウムの後半では、各パネリストには、モデレータや質問者からの問いかけに対する考えを、それぞれの立場から発言して頂いた。

まず、ソーシャルメディアが独裁政権に与える影響についての問いかけに対し、夏野剛氏はこれからの時代においては、あらゆる情報が共有されることを前提とした社会制度をつくることが、社会的安定性を実現することにつながるだろうと発言した。

次に、国家の機密情報をメディアや個人が暴露する権利についての問いかけに対し、町田徹氏は既存のメディアは、これまでの失敗の積み重ねのなかで、暴露すべき機密情報を判断する基準を身に付けてきたが、これまでの失敗の蓄積がない個人は、暴露すべき機密情報を判断する基準を持たないと述べた上で、個人が情報を発信する時代においては、その情報の善し悪しを独立に判断できる行政機関が必要になるだろうと発言した。

また、特定の政治家がネット企業を介して実質的な検閲をしているウィキリークスの事例についての問いかけに対し、世耕弘成氏はクラウドの環境においては国家がその気になれば、情報通信企業を介してあらゆる個人の情報を見ることができると述べた上で、こうした状況においては、情報通信企業に対する独占禁止法等を含めた法規制の運用についてよく考える必要があると発言した。

続いて、政権政党にはどのような情報管理体制が求められるかというフロアからの質問に対して、柿沢未途氏は、国家の機密情報は最小限であるべきだとしながらも、機密情報を公開する場合にはその情報の持つ公共性についての判断を慎重に行う必要があると発言した。

そして、ネットワークの中立性に対する日米の意識の違いについてのフロアからの問いかけに対して、関口和一氏は、アメリカでは問題を事後的に処理するなかで中立性について議論するが、日本では問題が発生しないように事前に中立性の調整をしていると述べた上で、こうした中立性についての調整方法の違いが日米のネットワークの中立性に対する意識の違いにつながっているのではないかと発言した。

最後に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授の金正勲は、各パネリストからの発言を受けて、新しいメディアと既存のメディアの間に、新しいメディアが公開した情報を既存メディアが報道するという協力関係があることが理想的だと発言した。


(文・川村真哉)
開催:2011年2月1日 18:30-20:45
於 慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール