シンポジウム・レポート

2010年8月26日、慶應義塾大学三田キャンパスG-Sec labにおいて、「国民ID制度を考える」と題したシンポジウムを開催しました。
このシンポジウムでは、国民の利便性につながるID制度について、現在使われている用語を整理した上で、民間IDの活用も含めた制度設計について議論しました。

パネリスト

崎村 夏彦 氏  (OpenID Foundation 副理事長)
座間 敏如 氏  (内閣官房 電子政府推進管理(GPMO)補佐官)
鈴木 正朝 氏  (新潟大学)
高井 崇志 氏  (民主党 衆議院議員)
高木 浩光 氏  (産業技術総合研究所)
松本   泰 氏  (セコム株式会社 IS研究所)
國領 二郎     (慶應義塾大学 総合政策学部長)

モデレータ

折田 明子     (慶應義塾大学)

シンポジウムの前半では、各パネリストからID制度に対する考えを、それぞれの立場からプレゼンテーションして頂いた。

最初に、慶應義塾大学総合政策学部長の國領二郎は、IDには、1.本人の実在確認、2.本人の正統性確認、3.利用者の同定とデータの紐付け、という3つの要素があるとした上で、IDについて議論する場合には、その局面に応じて、これら3つの要素のうち何を議論しているのかをはっきりと意識した方が良いと発言した。また、現在議論されている「共通番号制」が複数の行政分野を横軸でつなぐものであり、「国民ID」は、利用者がそれらにアクセスする手段であるとして、前者を横軸、後者を縦軸で図示し整理した。

セコム株式会社IS研究所の松本泰氏は、効率的なプッシュ型の行政サービスを念頭にIDと番号について説明をした。こうしたサービスの実現のためには、1.個人情報を連携するための「番号制度」、2.本人確認するための「認証基盤」、3.個人情報を移動する際の原則、4.個人情報を連携させるための情報交換基盤、という4つの制度や基盤を確立することが必要だと発言した。

OpenID Foundation 副理事長の崎村夏彦氏は、国民にとって利便性の高い電子政府を実現するためには、1.「自己情報コントロール権」が確保できる、「国民のためのID」基盤の必要性、2.行政が民間の既存の仕組みを利活用することの重要性、3.国際標準のオープンな枠組みのなかで、第三者機関が認証手段の認定や監査を行うことの必要性について指摘した。特に、民間IDが広く普及している背景を踏まえ、この有効活用について可能性を示した。

新潟大学の鈴木正朝氏は、IDの法的解釈に言及しながら、情報の受領者が特定の個人を識別できないIDであっても、そのIDに購買履歴が付随することによって個人の識別性が高まること、またこうした情報が売買されるならば、個人のプライバシーにとって大きな脅威となると発言した。


産業技術総合研究所の高木浩光氏は、今回のシンポジウムでは、1.国民IDを一般民間事業者が利用すると何が起こるのか、2.携帯電話のIDを国民IDとして利用することはあり得るのか、3.携帯電話のIDはどの範囲までなら国民IDとして利用して良いのか、4.技術的解決を前提とするのであれば、国民IDを一般民間事業者が利用しても良いのか、を議論したいと発言した。また同氏は、携帯電話の普及率を鑑み、いわば「国民総ケータイ番号制度」となっていることを指摘した。

民主党衆議院議員の高井崇志氏は、「社会保障・税に関する番号制度に関する検討会」について言及し、この検討会の中間取りまとめでは、1.番号の利用範囲、2.番号制度の設計、3.プライバシー保護の徹底、という3つの視点からの選択肢を提示していると説明した。


内閣官房電子政府推進管理(GPMO)補佐官の座間敏如氏は、国民IDの導入に先立っては、IDの導入目的と影響範囲の関係性分析をすることが必要だとした上で、国民に使い続けてもらえるIDを実現するためには、IDの発行から廃棄に至るまでの運用プロセスや個人のプライバシー保護などに配慮することが必要だと発言した。

シンポジウムの後半では、慶應義塾大学の折田明子が国民IDの定義について改めて、行政管理用の識別子としてのIDと、本人の正統性を確認するためのIDという軸を提示した上で、パネリストに対して国民ID制度についての意見を求めた。


パネリストからは、国家や民間のID活用を適切に評価できる第三者機関の在り方についてきちんと議論すべき、番号が知られても問題が生じないID制度とその運用を実現していくべき、IDを活用した適切な電子行政システムを実現することを考えるべきという意見が寄せられ、今後ケータイIDのように国民IDに紐付いた履歴情報の売買が起こる可能性もある、IDで名寄せするつもりのない情報でも、番号が共通化されていると名寄せされてしまう可能性があるとする懸念が寄せられた。さらには、IDによるプライバシー侵害の問題と利便性のバランスについては国民が議論を重ねて決定すべき問題だという考えや、民間でも住基ネットを使うことができれば優れたIDを民間で発行することも可能になるとする考えが寄せられた。

また、フロアからは、アメリカやイギリスなど国民IDがない国をどのように検討しているのかという質問が寄せられた。

この質問に対してパネリストからは、慣習法である英米法の国には国民ID制度がない国が多く、大陸法の国には国民ID制度がある国が多いとする見解や、費用対効果の低い国民ID制度の導入をやめたとされているイギリスの決断の良し悪しは今の段階では判断できないとする意見が出た。なお、アメリカでは時間をかけて公的な国民IDを配布するよりも、既に利用されている民間のIDを活用することによって、効率的に行政サービスを提供することが重視されている事例が紹介された。

(文・川村真哉)
開催:2010年8月26日 18:30 - 20:30
於 慶應義塾大学三田キャンパス 東館 G-sec lab