シンポジウム・レポート

 2010年5月13日、慶應義塾大学三田キャンパスG-Sec labにおいて、「クラウド時代のセキュリティ問題を考える」と題したシンポジウムを開催しました。本シンポジウムでは、クラウド・コンピューティング環境におけるセキュリティやプライバシーの問題について、クラウドが持つ産業的・政策的意味について政産官学のキーパーソンと共に議論しました。

パネリスト

スコット・チャーニー 氏 (Microsoft Corporation 副社長 Trustworthy Computing 最高責任者)
高井 崇志 氏 (民主党衆議院議員)
平井 卓也 氏 (自民党衆議院議員)
江崎   浩 氏 (東京大学 大学院 情報理工学系研究科  教授)
高橋 郁夫 氏 (IT法律事務所所長・弁護士)
村上 敬亮 氏 (経済産業省産業技術環境局地球環境対策室長)
折田 明子    (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科講師)

モデレーター:
金   正勲   (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授)

シンポジウムの前半では、まずMicrosoft Corporation 副社長のスコット・チャーニー氏に基調講演をして頂いた。

チャーニー氏は、サイバー犯罪に対処するためには、誰がどのような目的で攻撃しているのかという属性情報の把握を進めていくことが必要だと発言した。また、こうしたサイバー犯罪に対するセキュリティの問題はクラウドによってさらに加速するとした上で、サイバーセキュリティーの問題に対しては国際的に協力して取り組んでいく必要があると述べた。

次に、各パネリストには、クラウド時代のセキュリティ問題に対する考えを、それぞれの立場からプレゼンテーションして頂いた。

IT法律事務所所長の高橋郁夫氏は、クラウド環境では、効率性と信頼性のバランスが問題になるとした上で、こうした環境下においては、クラウドを利用する主体のプライバシーを尊重しながら、クラウドのセキュリティを向上させるためのインセンティブをいかに設計していくのかということが問題になると説明した。

東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏は、故事を引きながらまずセキュリティついてのルールは、個人の多様性を認めた上で、少し緩めにデザインすることが重要だと述べ、次にクラウドにおいて国際的なコラボレーションを実現するためには、現状では不透明な日本政府のポリシーを明確化していくことが必要だと述べた。

経済産業省産業技術環境局地球環境対策室長の村上敬亮氏は、クラウド上のデータ管理の直接責任は、データを持つ個人にあるとし、個人はその責任を全うするためにクラウド事業者を厳しく選ぶべきだと述べた。その上で、クラウド事業者はデータ管理のサービス・レベルを個人に対して明確に提示すべきだと述べた。

自民党衆議院議員の平井卓也氏は、大規模クラウド事業者がいない日本の成長戦略において、政治家がデジタル産業の振興に取り組むべきだと述べた。また、政府がコスト削減のために海外のクラウド事業者に国民のデータの管理を任せることの是非については、政治的な判断が必要だと発言した。

民主党衆議院議員の高井崇志氏は、これまでのIT戦略は各省庁を中心に策定されてきたが、情報通信分野においては、省庁の縦割りの壁を政治主導で克服することが必要だと述べた。また、民主党で作成した情報通信八策というマニフェストに言及し、民間の方々、有識者の方々の声を聞いた上で、戦略を作ることが必要だと発言した。

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科講師の折田明子は、クラウドの環境を利用すれば、一つ一つでは意味を持たなかった情報も、それを集めて視覚化することで意味を持つことがある例を図で示し、例えば行動情報や履歴情報をリンクさせることによって、発生する便益とそこから生じるプライバシーの懸念をいかに解決するかについて考えていく必要があると指摘した。 

シンポジウムの後半では、まずフロアから、個人が持つ情報を連携されることによる影響を読み切れないという現実があり、これを政府や事業者はどのように考えていくべきかという質問や、個人のプライバシーの問題は契約で解決しきれず、ユーザーのリテラシーが追いついてこないことや、政府にはセキュリティ導入の模範を示してほしい、クラウド時代のセキュリティに対処するためにはどのような法律的アプローチが良いのかをもう少し議論すべきとする意見が寄せられた。

こうした質問や意見に対して、パネリストからは、ユーザーは信頼できる事業者に情報の管理を任せるべき、個人が自分のデータの全ての振る舞いのを把握することは難しいので、事業者が個人に対してシンプルなデータ活用のルールを示していくべきとする主張や、セキュリティの問題については、業界のイノベーションを重視しながら、政府に監督の役割をさせることが賢明である、民間企業には、政治家を使って消費者のニーズを霞が関に届けることをしてほしいとする意見が述べられた。

最後に慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授の金正勲は、日本政府はプライバシーに対するスタンスが明確でないとした上で、このスタンスが明らかになり次第、クラウド環境でデータが国境を越えた時のプライバシーに対する考え方について、改めて議論したいと述べた。

(文・川村真哉)
開催:2010年5月13日 18:00-20:45
於 慶應義塾大学三田キャンパス 東館 G-sec lab.