シンポジウム・レポート

2010年4月13日、慶應義塾大学三田キャンパスG-Secラボにおいて、「電子書籍ビジネスの未来」と題したシンポジウムを開催しました。グーグルブックサーチ騒動、アマゾンキンドルの躍進、iPadへの高まる期待による最近急速に注目されているデジタル書籍について、技術・産業・制度面から検討することを目的としました。特に、米国に比べ活力の見えない日本の現状を理解し、今後の展望について政産官学のキーパーソンと議論しました。

パネリスト


河内   孝 氏  慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所講師
岸本 周平 氏 民主党・衆議院議員
世耕 弘成 氏 自民党・参議院議員
津田 大介 氏 ジャーナリスト
中村伊知哉 氏 慶應義塾大学メディア・デザイン研究科教授
福井 健策 氏 弁護士
干場 弓子 氏 ディスカヴァー・トゥエンティワン取締役社長          
國領  二郎   慶應義塾大学総合政策学部長

モデレータ

金  正勲      慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授

シンポジウムの前半では、各パネリストから電子書籍ビジネスおよび関連法・政策に対し、それぞれの立ち位置についてプレゼンテーションを戴いた。

最初に、ジャーナリストの津田大介氏が、自身が書籍の書き手であり、電子書籍化を意識している立場から、既存の電子書籍の議論は編集者が中抜きされ著者の収入が増えるといったシンプルな議論に終始しているが、電子書籍の登場により出版社・編集者・著者の関係性が変わることは確実であり、より具体的なビジネスモデルを考えていく必要があるとの認識を示した。

続いて、ディスカヴァー・トゥエンティワン取締役社長の干場弓子氏は、版元の立場から、書籍閲覧のインターフェースが変わることで検索機能などの表現の幅が広がる点、英語圏へのアプローチがより魅力的なコスト形態で可能になる点、著者と読者の関係性の変化――の3つの論点を挙げた。

元毎日新聞社で現在慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所講師の河内孝氏は、今は編集者が信頼関係のある著者との間に、自分が面白いと考える出版物を作っていくには魅力的な時代だとして、同時にデータビジネスの流通過程が中抜きになるのは時代の流れではないかと述べた。

弁護士の福井健策氏は、電子書籍には著作権の問題が関わっているとして、権利の所在・管理責任の明確化および孤児著作物対策の2点が今後の課題であると提起した。また、国内には出版契約書が締結されていない書籍が多い実態も明らかにした。


慶應義塾大学メディア・デザイン研究科教授の中村伊知哉氏は、メディア融合の議論は20年以上やっていることなので、その先の具体的サービス内容を考えるべきとして、慶應義塾大学で実施しているAMIOプロジェクトを紹介した。


さらに自民党参議院議員の世耕弘成氏は、端末およびプラットフォーム市場において、日本の産業として成功させコンテンツ産業振興につなげていきたいと述べた。自身が関わった国会図書館蔵書のデジタル化の取り組みも紹介した。さらに現行の、著者からの申請により出版社に認められる出版権の申請方法の見直しが必要ではないかとの意見を提示した。

同じく政治家の立場から民主党衆議院議員の岸本周平氏は、電子書籍市場500億円のうち8割強がコミックであることに触れ、日本のコンテンツ力は多分野にわたるとして、新しい端末の登場で想像もしなかった新たなコンテンツが生まれる可能性があるとの認識を示した。再販制度などの制度上の障壁を取り除き、新しいコンテンツが生まれる土壌を作りたいと述べた。

最後に慶應義塾大学総合政策学部長の國領二郎は電子書籍のプラットフォームを握るのは誰なのかが重要な焦点になるとの見方を示した。




シンポジウムの後半では、iPadを利用した電子書籍のデモンストレーションが行われ、さらにフロアからは、今後の出版ビジネスの構造決定の重要性や海賊版対策、政策的な優先順位付けの必要性などの指摘が寄せられた。また、書籍と電子書籍の違いとしてプライバシーの問題が挙げられ、その対処も考えていく必要があるとの意見が出された。

(文・櫻井美穂子)
開催:2010年4月13日 18:00-20:30
於 慶應義塾大学三田キャンパス 東館 G-sec lab.