シンポジウム・レポート

2010年4月7日、慶應義塾大学三田キャンパスG-Sec labにおいて、「国家ブロードバンド戦略‐"光の道"への道」と題した緊急シンポジウムを開催しました。同年3月に公表された原口総務大臣の光の道構想や米国連邦通信委員会(FCC)の国家ブロードバンド計画(National Broadband Plan)の公表を受け、国家ブロードバンド戦略に関してパネリストの方々をお招きして議論をしました。

パネリスト


小池 良次 氏  在米ITジャーナリスト
嶋    聡 氏   ソフトバンク社長室長、元民主党衆議院議員・次の内閣総務大臣
野原佐和子 氏  イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長
            総務省ICTタスクフォースメンバー
            経済産業省産業構造審議会委員
町田   徹 氏  経済ジャーナリスト、総務省ICTタスクフォースメンバー

國領 二郎     慶應義塾大学総合政策学部長(ビデオ参加)

モデレータ

金  正勲      慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授

C:\Documents and Settings\Administrator\Local Settings\Temporary Internet Files\Content.Word\20100407_010.jpgシンポジウムの前半では、各パネリストから国家ブロードバンド戦略に対する考えを、それぞれの立場からプレゼンテーションして頂いた。

最初に、在米ジャーナリストの小池良次氏が、全米ブロードバンド計画について紹介した。この計画では放送通信行政の基礎はブロードバンドにあると規定しており、ブロードバンドがICT産業の成長ばかりでなく、教育や環境、送電システムや交通システムなどの分野に貢献することを期待していることが説明された。

C:\Documents and Settings\Administrator\Local Settings\Temporary Internet Files\Content.Word\20100407_012.jpg続いて、ソフトバンク社長室長の嶋聡氏は、オーストラリア、シンガポール、スウェーデンなどを例に海外の国家ブロードバンド戦略について言及した上で、世界の流れは、光ファイバ整備を国家戦略として一挙に実現することにあるとして、こうしたインフラの整備は、イノベーションを引き起こすためのワイズスペンディング(筆者注:賢い支出)と位置付けるべきだと述べた。

C:\Documents and Settings\Administrator\Local Settings\Temporary Internet Files\Content.Word\20100407_012.jpgイプシ・マーケティング代表取締役社長の野原佐和子氏は、そもそも「光の道構想」が目指している100%の世帯でブロードバンドサービスの利用を実現するという目標が適切か否かについて、さらなる検討が必要だと指摘した。次に、野原氏は重要なことはブロードバンド環境の利活用を促進することだと述べ、そのためには、既存の規制や制度を見直し、民間事業者がブロードバンドを活用して多様なビジネスを展開しやすい環境を整えるべきだと発言した。

経済ジャーナリストの町田徹氏は、まず、「光の道」構想実現のためには、「光の道」となるインフラの実現にあたって、誰が、何を使うのかということと、そのインフラの利活用をいかにして促進するかということが問題だと発言した。また町田氏は、この「光の道」への国民のアクセス権を保障するためには、新しいユニバーサルサービス制度の設計を考える必要があると述べた。

C:\Documents and Settings\Administrator\Local Settings\Temporary Internet Files\Content.Word\20100407_012.jpg最後に、慶應義塾大学総合政策学部長の國領二郎がビデオ映像を通じて、条件不利地域とされている地域であっても、河川管理や電力用に既に敷設されている光ファイバへの相乗りが認められれば、必ずしも新規の敷設を伴わずとも「光の道」を実現できると指摘した。一方で最大の事業者であるNTTが中心となってインフラを整備する場合に独占度が高まるという批判に対しては、国家権力によってNTTを構造分離させるのではなく、NTTが外部の人々とも協力しながら、自主的に構造分離の道に進むことが望ましいと発言した。

シンポジウムの後半では、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授の金正勲が、パネリストに対して、原口大臣が発表した光の道構想の目標と、政策決定のプロセスの適正性について意見を求めた。

C:\Documents and Settings\Administrator\Local Settings\Temporary Internet Files\Content.Word\20100407_012.jpgパネリストからは、個々の施策と目標が一致していないという主張や、日本は技術に対する理解がないという指摘、日本の国民はまだ政権交代後の政策決定のプロセスに慣れていないという発言もあった。さらに、ブロードバンド環境の利活用こそが重要だという論点から、利活用を促進するためのステップとして、まず光電話を普及させることの可能性について言及した発言も出た。

パネリストの発言を受けて、フロアからは、過去の政策のレビューをきちんとして現状を正確に認識する必要がある、ブロードバンドを社会インフラと考えるなら、そこに公費を投入して価格を下げることもあり得る、ブロードバンドを基本インフラとした場合に、これまでに投資してきた設備は無駄にしてしまうのか、と言った指摘が寄せられた。

こうした指摘に対して、パネリストからは過去の政策のレビューをしっかりして、時には政府にベスト・エフォートを認める必要性もあること、その上で、民間事業者の競争の中から、イノベーションが生まれる社会の構造を設計していくことが重要であり、光の道実現のためには何よりもブロードバンド環境の利活用促進が重要であるのではないかという発言が寄せられた。

(文・川村真哉)
開催:2010年4月7日 18:00-20:30
於 慶應義塾大学三田キャンパス 東館 G-sec lab.